災害時における企業の安全配慮義務と安全対策
相模原にある多湖総合法律事務所の弁護士の多湖です。
大きい地震が来ると未だに3.11を思い出します。
発災時は横浜のみなとみらいにいましたが、この世の終わりかと思うくらい揺れました。東海沖か関東大震災が頭をよぎりました・・。
東北で起きた地震と知り、本当に驚きました。
今日は、大規模災害と企業の安全配慮義務についてです。
災害時にも法的な責任がある
「天災だから仕方ない。」と思ってしまうかもしれませんが、災害時にも企業には顧客や従業員に対する「安全配慮義務」という法的責任が課せられています。
もちろん具体的にどのような内容の安全配慮義務かどうかは事業形態にもよりますが、全く無責任ではいられないというのは確固とした判例の見解です。
例えば、平成25年9月17日仙台地方裁判所は高台にある幼稚園が、眼下の海沿いの地域に向けて幼稚園送迎バスを走らせた事案について、「幼稚園児のように園長及び教諭らを信頼してその指導に従うほかには自らの生命身体を守る手だてがない者に対しては、できる限り自然災害等の情報を収集し危険性を予見し、危険回避のための最善の措置を執る義務を負う」と判示しています。
幼稚園のみならず、自分で身動きが出来なかったり、判断能力が低下している患者さんのいる病院や福祉施設などは同様のかなり高い注意義務が課せられる可能性が高いです。
それ以外の企業はどうでしょうか?
平成26年2月25日仙台地方裁判所判決は、津波警報を受け、銀行支店長の指示により、あらかじめ避難場所に指定されていた支店の屋上に避難していた行員等が、津波に流されて死亡ないし行方不明となってしまった事案について、結論として安全配慮義務違反は否定したものの、その前提として、銀行には、行員及び派遣スタッフの生命及び健康等が、地震や津波等の自然災害の危険からも保護されるよう配慮すべき一般的な義務があると肯定しています。
したがって、一般的な企業においても、従業員や顧客に対する安全配慮義務は存在しますし、従業員が多い企業、顧客などの人を多く集めるタイプの事業を行う場合には、災害に伴う混乱、被害が大きくなりますから、安全配慮義務の程度も大きくなっていく可能性があります(例えば、コンサートホールや大型レストランなど)。
災害=自己責任は通らず、平時から十分に準備しておく必要があるというのが共通認識になっています。
どのような準備をすればいいか
それではどのような準備を事業者はすればいいのでしょうか?
誰も経験したことのないような、あらゆる災害を想定して準備しなければならないのでしょうか?
この点、災害時に法的責任を問われる可能性があるとはいっても、災害当時に予見不可能な事情を基礎にして事業者に損害賠償を命じることはありません。
通常の企業に災害の調査研究能力などないですから当然のことですが、過去の災害や行政の被害想定に基づいた準備は一つの基準になります。
例えば行政が出している津波のハザードマップ上、浸水被害が発生しない場所については、事業者の責任を否定されています(平成26年3月24日仙台地方裁判所判決)。
相模原についてはこちらを参照↓
相模原地域防災計画
相模原各ハザードマップ
http://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/bousai/23858/index.html
逆にいえば、最低でもハザードマップ等で、事業所の所在する地域において発生が想定されている災害については、防災マニュアルの作成及び従業員への周知訓練、実際の災害を想定した避難訓練が必要になることがあるということですね。
平成30年6月21日追記
*7名の命が津波で失われた仙台高裁の平成30年4月27日判決(大川小学校控訴審判決)では、災害発生前の対応(日頃からの防災の取り組み)が注意義務違反の有無の主要争点となりました。
判決では、津波ハザードマップの予想浸水区域図において、予想浸水区域とされていない場合でも津波が来襲する危険がないことを意味するものではなく、危機管理マニュアルの見直し、点検の不備が指摘されています。
自治体のハザードマップ上、安全だから準備しないというのは注意義務違反ということになりそうです。
ただ、これは被告が地方自治体であり防災に関する能力が十分にあること、幼い子供がたくさんいる学校という特殊性もあるかと思います。
中小企業ではやはり地方自治体の出すハザードマップを参考にすることは防災準備の一つ重要な起点と思います(ハザードマップで大丈夫だから大丈夫と妄信してはいけず、可能な限り準備を進めておくということでしょうか)。
現場の責任者への権限付与について
「地震怖いけど皆仕事してるし逃げられない。」
「どのくらいの災害なら仕事を中断してよいのだろう。」
まじめな人ほど仕事に対する責任感が判断を鈍らせる可能性があります。
災害時に業務を終了させたり、避難の指示をする権限は現場の責任者に与えておく必要があるとされています。
判断できるものがおらず、火災や津波が迫っているのに漫然と業務を続け、仕事現場から逃げ遅れて被災することを防ぐためです。
現場の責任者の判断権限をしっかりと定め、周知徹底するとともに、責任者不在の場合の判断権者も順次定めておく方が良いです。
なお、責任者による避難に関する勤務時間中の適切な指示は、業務命令・指示であり、職員は労働契約上、合理的な理由がなければこれに従う義務があるとされています(平成27年2月20日盛岡地方裁判所判決)。
指示される方は従わなければいけないのだから指示する方も合理的な判断が出来るように備えておかなければいけないということですね。
まとめ
日々の業務に追われているとなかなか災害対策に手が回りませんが、従業員数名からの中小企業でもハザードマップの確認、避難経路の確認、避難訓練、業務中止に関する周知徹底程度はやはりしておかなければならないかもしれません。
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