弁護士コラム
「枕営業」は不倫にあたらないとの判決。
色々経験する中で、開業して3年くらい、弁護士として合計10年くらいは働いたような印象です(白髪が急激に増えました)。
本日、遅れながら群馬の先生からお花が届きました。やはりお花があると華やかになります。
東京地方裁判所平成26年4月14日判決
少し古い話になりますが、この日、我々のように離婚を多く取り扱っている弁護士にとっては、衝撃の判決が出ました。
それは枕営業を理由に不貞行為の損害賠償請求をすることは出来ないというものです。
判決の結論部分
↓
「クラブのママないしホステスが、顧客と性交渉を反復・継続したとしても、それが「枕営業」であると認められる場合には、売春婦の場合と同様に、顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」
判決の理由部分
↓
「ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には、当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、たとえそれが長年にわたり頻回に行われ、そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではないと解される」
「「枕営業」の場合には、ソープランドに勤務する女性の場合のように、性行為への直接的な対価が支払われるものでないことや、ソープランドに勤務する女性が顧客の選り好みをすることができないのに対して、クラブのママやホステスが「枕営業」をする顧客を自分の意思で選択することができることは原告主張のとおりである。しかしながら、前者については、「枕営業」の相手方となった顧客がクラブに通って、クラブに代金を支払う中から間接的に「枕営業」の対価が支払われているものであって、ソープランドに勤務する女性との違いは、対価が直接的なものであるか、間接的なものであるかの差に過ぎない。また、後者については、ソープランドとは異なる形態での売春においては、例えば、出会い系サイトを用いた売春や、いわゆるデートクラブなどのように、売春婦が性交渉に応ずる顧客を選択することができる形態のものもあるから、この点も、「枕営業」を売春と別異に扱う理由とはなり得ない。」
簡単にいえば、ソープランドで働く女性は不法行為(不貞行為)に当たらないのだから、クラブのママやホステスでも同じだという理論です。
風俗通いが配偶者との間で離婚事由(離婚事由としての不貞行為についても)となり得ることは争いないのでしょうが、かといって、その相手方に損害賠償請求が出来るかというとそうでもないというお話なのですが・・。
この判決は、弁護士同士でも首をひねる判例です。
この判決のおかしなところ
この判決のおかしなところは、クラブのママやホステスと、ソープランドを同じ理論でまとめるのはやはり無理があります。
クラブはお酒を飲むところであって、本来性的なサービスを受けるところではないはずですから、女性側の結果回避可能性の点で、同じに語るのは論理的に誤りがあるからです。
その辺は判決を書いた始関裁判官のお考えを聞きたいところです。
この判決が与えた影響
この判決が与えた影響。
それは、必ずといっていいほど、被告側の代理人がこれを引用して請求棄却を求めるようになったことです。
地方裁判所の判決といえ、与える影響はやはり大きい。
今のところ、この判決と同じ理論で、請求棄却になったことはないですが、影響があるかないかと問われれば、実務に大きな影響があります。
これまでベテランの裁判官が多かったので、あまりこの判決に引きずられる裁判官には当たったことはありませんでしたが(慰謝料額の多寡において考慮する裁判官はいますが)、これからはどうなのでしょうか。
裁判例の蓄積が待たれます。
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