物の損害と人の損害
交通事故が発生すると、その賠償については、物の損害と人の損害を分けて考えます。
修理代や買替諸費用、評価損、代車料、休車損害、着衣損など物について生じた損害を「物損」と呼び、
治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害慰謝料、後遺障害慰謝料など、人について生じた損害を「人損」といいます。
本来は、こういった分類にあまり意味はないかもしれませんが、警察も保険会社も裁判所も弁護士も、この区分けで色々と物事を考えたり、呼んだりしますので、一般的な知識として覚えておいても良いかもしれません。
治療関係費
治療費や施術費について必要かつ相当な実費全額が認められます。
但し、過剰診療、高額診療については、否定されることがあることに注意が必要です。
過剰診療とは、診療行為の医学的必要性ないしは合理性が否定されるものをいい、高額診療とは、診療行為に対する報酬額が、特段の事由がないにも拘らず、社会一般の診療費水準に比して著しく高額な場合をいうとされています。
しかし、一般の方が、過剰診療や高額診療かどうかを治療中に判断することは難しいことが多いです。
よく過剰診療などで問題が起きるパターンは、例えば、頸椎捻挫(むち打ち)で病院に通っていいと言われ、通っていたところ、その間相手方保険会社から何の連絡も来なかったので、通い続けていたところ、1年半が過ぎた頃に相手方保険会社が、通院期間が長すぎるとして、相手方保険会社が支払った治療費の妥当性を争ってくるパターンです。
一般的な損害保険会社では、担当者がこまめに怪我の状況や治療内容の確認をしており、場合によっては医療照会といって、医療機関に今後の治療の見通しの確認等をし、治療費の支払い等の打ち切り等も行うので、過剰診療は一般的には発生しません。
これが生じるのは、保険会社の担当者が多忙で、治療状況や被害者の方への連絡を怠っており、あとで上司から治療が長すぎておかしいじゃないかと指摘され慌てて争い始める場合か、被害者の方の方で通う医療機関を保険会社に伝えずに勝手に通ってしまった場合です。
健康保険が適用されている治療について、高額診療として争われるケースは考えにくいでしょうが、交通事故の場合は自由診療(治療費の基準が決まっていない)のことが多く、特に接骨院等の施術などではよく争いが生じます。
健康保険が適用されている治療について、高額診療として争われるケースは考えにくいでしょうが、交通事故の場合は自由診療(治療費の基準が決まっていない)のことが多く、特に接骨院等の施術などではよく争いが生じます。
いずれにせよ、これらの事態は、相手方保険会社としっかりとコミュニケーションを取っておけば避けられるため、しっかりとこちらからも情報を伝えておくことが大事です。
それでも、不安であれば、手術等の治療内容について、書面やライン、会話の録音等で証拠を残しておきましょう。
付添費用
医師の指示または怪我の程度、被害者の年齢等により必要があれば、プロの付添人の部分では実費全額、近親者の付添人では1日につき6500円が認められています。
将来介護費
医師の指示または症状の程度(例えば重度後遺障害など)により必要があれば、被害者の方の損害として認められています。
プロの付添人の場合は実費全額、近親者の付添人の場合は一日につき8000円とされていますが、具体的看護状況により金額の変動があります。
雑費
入院中などには、治療のため以外にも色々なものを購入しなければならないことがあります。
そのため、入院雑費として、1日につき1500円が認められることが多いです。
また、重度後遺障害の場合には、例えば紙おむつ、尿取りパットなど、介護雑費など様々なもの(実際にかかると予想されるもの)が認められるケースがあります。
葬儀関係費用
葬儀費用は原則として150万円とされ、これを下回る場合は実際に支出した金額とされることも多いですが、これより大幅に多額でない場合は、様々な事情に鑑みて、認める裁判例も多く存します。
休業損害
- 給与所得者
事故前の収入を基礎として怪我によって休業したことによる現実の収入減が補填されますが、有休休暇の取得は、収入減がなくとも保障されます。休業に伴う賞与の減額、昇給、昇格遅延も保障されますが、証明資料が必要です。
- 事業所得者
現実の収入減があった場合に認められ、固定費(家賃、従業員給料、固定資産償却費)などの支出は、事業の維持・存続のために必要やむを得ないものは損害として認められます。
注意が必要なのは、保障される対象は「売上げ」ではない点です。
売上がどれだけあっても、所得がほぼない方については、休業補償がほとんど認められないことさえあります。
基本的に確定申告書から収入減を認定するので、普段から節税のために収入を過少に申告していたり、経費を多くしていると交通事故にあった際に十分な補償を受けられないことがありますから、気を付ける必要があります。
- 家事従事者
専業主婦、実収入が女性の平均賃金以下の収入の兼業主婦の方は、平均賃金を年収として計算することとなります。
高齢女性の場合は、年齢ごとの平均賃金を用いることも多いですが、夫婦と子どもの主婦で30~40代の方の場合は、女性全ての平均賃金を使うことが多いため、年収381万9200円(令和2年度)とされています。
主婦の場合は、実際の減収というのがないため、病院に通って日数や、家事が出来なくなった日、内容を付けている日記、本人の陳述書等から認定することになります。
後遺症による逸失利益
後遺症逸失利益というのは、後遺障害を負ってしまうと、将来的に仕事に必ず影響が出るため、基礎収入×影響が生じる割合(減収の割合)×影響が生じる期間で計算して保障されるものです。
但し、賠償の実務では、例えば十数年後に生じるはずの逸失利益分も先にまとめてもらってしまうため、最初に手元に大きな金額があることになります。
お金は、運用して増やすことが出来るという考え方のもと、先に渡すことで利益が得られるであろう部分については、渡すときに減らしておかなければならないという考え方のもとで(中間利息控除)、労働能力喪失期間に応じて、特別な係数が用意されています。
それをライプニッツ係数といいます。
後遺症逸失利益は、下記のように計算します。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
18際未満(症状固定時)の未就労者の場合は、下記のように計算します。
基礎収入 × 労働能力喪失率 ×(67歳までのライプニッツ係数-18歳に達するまでのライプニッツ係数)
基礎収入の求め方は、休業損害と同じく、給与所得者、自営業者、家事従事者で異なります。
例えば、令和4年8月1日の症状固定時(事故日令和3年6月1日)に50歳の年収800万円のサラリーマンの方が、頭蓋骨陥没などの傷害を負い、治療後も神経症状が強く残った場合は、12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」として、800万円×14%(労働能力喪失率)×13.1661(就労可能上限67歳まで17年間のライプニッツ係数)=1474万6032円となります。
死亡逸失利益
算定方式は、基礎収入額×(1ー生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数とされています。
亡くなってしまった方の逸失利益の場合も、後遺障害逸失利益と似ていますが、亡くなった方については、「生活費控除」を行う点が異なっています。
また、失業されている方についても逸失利益なしとされることは少なく、働けていた時代の過去の年収や、今後、再就労意欲があった方は平均賃金を減額する形で基礎収入を求めることもあります。
生活費控除とは、「本来、給与の何割かは生活費として使われるところ、亡くなってしまったため、生活費としての支出が亡くなる為、何らかの調整が必要であるという考え方で、亡くなった方の生活費部分は、最初から差し引いて賠償金を支給する」という考え方です。
生活費控除率の目安は、以下の通りとされていますが、個別事案によって変動します。
- 一家の支柱
被扶養者一人の場合 | 40% |
---|
被扶養者二人以上の場合 | 30% |
---|
単身者の場合、男性の方が生活費控除率が高く、被扶養者が多いほど、自分のために使える生活費は少ないだろうということで、生活費控除率が低く設定されていることです。
この生活費控除率が低ければ低いほど、受け取る賠償金は高くなるという関係にあります。
慰謝料
- 死亡慰謝料
死亡慰謝料は死亡したことをもって支払われる慰謝料で、誰が死亡したかによって慰謝料額が変わります。一般的な基準では以下の通りとされています。
- 一家の支柱
- 2800万円
- 母親、配偶者
- 2500万円
- その他
- 2500万円 から 2500万円
「一家の支柱」とは、その家庭において主として稼働しているものを指し、「その他」には独身の男女や子ども、幼児、高齢者等が含まれています。裁判では上記に様々な要素を加味して慰謝料額を算定しています。高齢の方については慰謝料額が低く認定される傾向にあります。
この他に近親者固有の損害として近親者慰謝料というものも認められます。
- 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
傷害慰謝料は、入通院期間にしたがって算定されます。
地域によって異なりますが、財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「損害賠償額算定基準」(通称:赤本)に記載されている「入通院慰謝料算定表」を用いることが多いです。
- 後遺症慰謝料
自賠責保険に後遺障害等級の認定を申請することで等級の認定がされます。
裁判所は基本的に自賠責保険の認定を経てからの訴訟提起を求めてくるのが実務の運用です。
以下の基準によるもののほか、1級や2級などの重度後遺障害の場合は、近親者慰謝料も認められます。
- 第1級
- 2800万円
- 第2級
- 2370万円
- 第3級
- 1990万円
- 第4級
- 1670万円
- 第5級
- 1400万円
- 第6級
- 1180万円
- 第7級
- 1000万円
- 第8級
- 830万円
- 第9級
- 690万円
- 第10級
- 550万円
- 第11級
- 420万円
- 第12級
- 290万円
- 第13級
- 180万円
- 第14級
- 110万円