弁護士コラム
【弁護士コラム】法科大学院制度の失敗
こんにちは。相模原の弁護士の多湖です。
本日は趣向を変えて、司法制度改革(法曹人口増員と法科大学院)の失敗について振り返ります。
令和6年11月6日に司法試験の合格発表がありますね。
弁護士のサイトを見ているとたまに〇〇期という表記を見ますが、これは何年目の司法試験に合格したかを指しています。
我が国最初の司法試験は1期になるわけですね。
次の合格者たちは78期になるようです。
私は昔、現役で18期の方に、お目にかかったことがあります。
私の世代である65期は、新しい司法試験の中では合格率が一番低く、難しい世代でした。
受験科目も多く、試験時間も通しで4時間と、大変しんどい思いをしました。その反面、合格後は、空前絶後の「就職難」という恐ろしい時代でした。
神奈川県弁護士会でも就職説明会をやっていましたが、手取りではなく、総支給で月10万円台から20万円代、せいぜい優良で30万円代が多かったですね。労働時間は午前9時から午後10時くらいまで。
ある事務所で、ベテランの弁護士の方でしたが、
「弁護士は自営業者だから、本当は給料を払うのはおかしいんだけど、見習いということで生活保護の方よりは高い金額が貰えるようにしようと思っている。」
とおっしゃっていたのが印象的でした。
ここから弁護士会費が、数万円( 3 ~ 5 万円程度)が引かれ、国民健康保険や国民年金が引かれ、医療保険などはもちろん、ガソリンやら職業費を色々出しますから、かなり厳しいです。
当時は就職できない人もかなり出て、実家暮らしが多かったです。
一方で、東京は額面で年400万円から600万円までが多かったことも、やっぱり東京は経済力があるなと身をもって知った瞬間でもありました。
我々法科大学院世代は、奨学金を借りているものも多く、大学から司法修習までフルで借金をした方は、総額1000万円に及んでいる方もいました。社会人一年目からこの金額はなかなか厳しい負担です(今は司法修習で給費制が一部復活したので多少は楽になったようです)。
2004年4月に68校で開校した法科大学院。
2024年1月時点で法科大学院は国立で6大学、私立で29大学が募集停止あるいは廃止になりました。合計35校です。
国家予算もつぎ込んで、20年で半数も潰れる制度って本当にどうなんでしょう。
そこに通っていた学生たちの思いは。当時から強く疑問に思っていましたが、法科大学院って本当に必要だったのでしょうか。
2004年には7万2800人もいた法科大学院志願者が、2021年には8161人に落ち込み、最新の令和5年(2023年)でも1万2174人です。
[📖参考]
法科大学院の設置状況(令和5年度) — PDFファイル
対する予備試験は、制度が出来た2011年の8971人から2023年の1万6704人まで倍増です。法律事務所の就職でも、まず 法科大学院卒ではなく、予備試験合格者から採用するというのが主流です。予備試験組の方が遥かに優秀とされているためです。
確かに私自身も、予備試験経由の方は優秀ではない方に出会ったことがなく、法律事務所側のその気持ちはよくわかります。
[📖参考]
「司法試験の受験者数は?減少の理由や予備試験受験者数も解説」
https://studying.jp/shihou/about-more/applicants.html
また、法科大学院卒と予備試験合格者が受ける司法試験本体も、出願者数が最盛期の2011年の1万1891人(受験者数8765人)から2023年には4165人(受験者数3928人)へと半分以下に大幅に減少しています。
減少した理由は明らかで、大学卒業後、いわゆる新卒切符を捨てて、数百万円もの学費を払い、受かるか分からない司法試験にチャレンジし、やっとの思いで稼いでいくことが出来るかやってみないと分からない弁護士になるよりも、大学を新卒で卒業して、そのまま大企業に入った方が、はるかに将来性があり、生涯賃金も高くなるからです。
ただ、予備試験経由では目指したい人がまだいることを考えると、やはり法曹を目指したい方が若干は残っている可能性があります。そうすると、やはり、最大のネックは“法科大学院のお金と時間”だと思います。
ただでさえ、弁護士には会社員と違い福利厚生などないわけですから、お金だけをいえば、会社員より収入が高くなければ志望する人は出ないわけです。特に最近の若者は就労条件等にシビアです。それが法科大学院、司法試験離れにつながっていると考えるのが自然です。
単に司法試験の人気がなくなっているだけであれば、まだいいのですが、受験者の減少に伴い、“合格者の質”という点で問題が一つあります。
受験者が増えつつ合格率が上昇するならいいですが、受験者も大幅に減っているのに合格率が増えているのは、示唆するところは一つしかありません。
「合格人数のめどが政府から決められているため、合格レベルに達していない人がたくさん受かっている可能性があるかもしれない。」ということです。普通は同じ難易度と仮定すれば、受験者が減れば合格者も、受験者が減少した割合で減るのが合理的ですから。
加えて、特に最近は、知識を網羅的に取得する短答試験が、7科目から3科目に大幅に削られてしまいました。司法研修所の元教官の方々も、法曹としての最低限の基礎的な知識を有しない答案が増えたと口々におっしゃっていますね。
また、知識がないだけならまだしも、お金がない弁護士が増えたということで、若手、ベテラン問わず、全国的に成年後見人弁護士の横領が相次いだり(成年後見人のご家族のために、弁護士が横領することを想定した「救済のための保険」まで作っているほどですが、本当に衝撃です)、あるいは、詐欺集団に取り込まれて一緒に詐欺をして逮捕されたり、果ては破産管財人弁護士が横領する事件まで発生しています。
こういった状況の中で司法制度を本当にこのままにするつもりなのでしょうか。もはや、全体的なシステムの問題になりつつある気がしています。
司法制度改革がかなり大きく失敗したことを正面からまずは受け止め、司法試験を始め、根本から制度の見直しをする必要があるように思います。
以 上
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