弁護士コラム
離婚と共同親権について
皆さんこんにちは。
相模原の弁護士の多湖です。
※注 この記事は、令和6年3月10日に執筆しており、同日時点の情報にて作成しています。
共同親権の民法改正案の国会提出
とうとう離婚後に夫婦が共同親権を持つようにする民法改正案が国会に提出されました。
これによれば、「既に離婚が成立している単独親権の場合にも、親権を持っていない親が、他方の親に対して親権者変更の申し立てをすることで共同親権への変更が認められる」ということになるそうです。
すでに離婚した夫婦も「共同親権」を選択可に 民法改正案を国会提出
参考:https://www.asahi.com/articles/ASS3846YTS32UTIL00B.html
改正案の要綱
法務省のホームページによれば、離婚後の共同親権に関わる改正部分は以下の通りです。
※ある程度読みやすいように要約しています。
(1) 離婚又は認知の場合の親権者父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定めるものとすること。
裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定めるものとすること。
(2) 父母は、その双方が親権者であるときであっても、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
(3) 父が認知した子に対する親権は、母が行うものとすること。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができるものとすること。
(4) 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができるものとすること。
裁判所は、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならないものとすること。この場合において、次の⑴又は⑵のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならないものとすること。
⑴父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
⑵父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、又は協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
(5) 家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとすること。
この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律第一条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとすること。
法務省 民法等の一部を改正する法律案
https://www.moj.go.jp/content/001414763.pdf
民法改正案を読んだ所感
たくさんの離婚係争に携わる弁護士として、この民法改正案を読んでまず初めに思ったことは、「これは今後親権の争いがたくさん起きるし、長期化するだろう。」ということです。
それは、よほど子どもに興味がない場合を除き、子どもと離れることになる親も、共同親権を望むことになるでしょうし、それは離婚に至るまでの様々な経緯から共同親権を難しいと感じ、単独親権を望むものと強い争いを生じさせるからです。
離婚で大きい争点は、離婚慰謝料や財産分与、養育費など多々ありますが、最も大きいし長引くのは“親権”と“面会交流”です。親権が争いにあり、お互い一歩も引かないと3~4年あるいはそれ以上かかることもあります。
お金の問題と違って、子どもの問題は父母どちらも引けないのです。
今回の改正案で、特に注意しなければならないのは、民法改正案では、例外事情の立証が出来ない場合は、共同親権となるように設計されているように読める点です。
骨折させたりすれば証拠に残りますが、身体を傷つけず、かつ、証拠に残らないように相手を傷つけることはいくらでもできます。
裁判所は、客観的証拠を重視(現在の裁判官も保守的な弁護士もそれしか見ないと言っても過言ではないです)するため、そういった日常の被害というのを立証するというのは極めて困難ですし、弁護士にご相談に来られるときにはかなり夫婦関係も末期で、相手も離婚を警戒している段階ですから、証拠を取られるようなことはしないことが多いです。
離婚に限らず、あらゆる調停、裁判で、すがる気持ちで頼った裁判官や弁護士から「証拠はあるんですか。証拠がないなら、事実は存在しないと扱われますよ。」と辛い経験をされた方も多いでしょう。
私も立証の壁に挑み続ける一弁護士として、何度辛酸を嘗めさせられたことか、悔しい経験は数えきれません。
結局「立証の壁」を超えることは出来ず、今後、単独親権が認められるというのは、かなり少なくなっていくのではないかというのが私の所感です。
いずれにせよ、この辺については、今後の現場の家庭裁判所がどのような判断をしていくのか、その積み重ねによって、単独親権と共同親権のすみわけがなされていくでしょう。
他方で、立証の壁はあって、裁判所(などの第三者)に真実として認めてもらえなくても、当事者本人は自分の目と耳で全て経験しているわけですから、その場合、単独親権を望むはずです。離婚後もその苦悩が続くことを避けるためにです。
そのため争いは強まると考えられます。
私も、過去に、離婚の相手方から、「離婚しても子どもを通じて永遠につながっている。私から逃れることは出来ない。」と言われたことがあります。また、弁護士である私に対しても、依頼者の方に対しても、離婚係争ではなかなかないレベルの数えきれない嫌がらせもあります。
弁護士が携わる紛争案件で、弁護士や当事者に危害が及ぶケースは、離婚係争が大半です。私も離婚以外のあらゆる類型の紛争を経験していますが、離婚係争はそれだけ注意が必要な類型です。そのため、離婚事件は大変だからと一切携わらないという弁護士も多くいます。
それだけ離婚係争というのは経験した者にしか分からないくらい大変なのです。「え、そんな人本当にいるの?」と、恐らく大多数の方には想像もつかないと思います。でも実際にいるのです。
この点、一部の他の弁護士からは、共同親権の導入は拙速であるという声も上がっています。
「共同親権」導入は拙速 実務家の弁護士423人が法務省へ申し入れ
参考:https://www.asahi.com/articles/ASS1S63K2S1SUTIL025.html
他方で、私は離婚後に子どもと全く面会させてもらえない「片親疎外」の問題もよく経験するため、共同親権か、単独親権かで特定の意見があるわけではないですが、離婚事件の大変さというのは、よく把握する必要がありますし、「立証の壁」により、人知れず苦しみ続ける方が出るのは避けなければならないという思いです。
今回の改正予定の法律で変わること
それではこれらの改正で、今後の生活はどのように変化するのでしょうか。
〇改正法案は、協議離婚時には「共同監護計画」というものを策定することを義務付けていることも注意が必要です。他方、配偶者との親族以外との面会に関する事項も定められています。
面会交流といえば、月に1回他方配偶者のみというパターンが多かったですが、特に共同親権となる夫婦などでは、今後は変わっていく可能性が高いです。離婚した夫婦での連絡のやり取りも頻回になっていくでしょう。
〇他方で、共同親権においても、「監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使は単独ですることができる」とされています。子どもに関すること全てについて相手方の同意が必ずしも、必要なわけではなさそうです。
子どもについて、何か契約行為をしようとした時に、両親の署名押印を求められる手続がある場合には他方の同意が必要になります。
「日常の行為」というのが非常に抽象的ですが、恐らく、塾に行かせたり、携帯電話を持たせる契約などは争いなく良いのかもしれませんが、進学や海外留学の際の各手続きは日常的ではないので入らない可能性があるかもしれません。
想像したくないですが、弁護士が絡むような、示談や裁判が必要な時は必ず必要でしょう。相続等でも同様に考えられます。では、転校などはどうでしょうか。
両親の署名押印をどこまで厳格に求めるかはその組織の判断等にもよりますので、各組織の運用や、家庭裁判所の判断の蓄積を待たないと社会が今後どのように変わっていくか、確たることがいえません。
いずれにせよ、少なくとも今よりは、「事前に手続きについて連絡を取って説明をし、許諾を求める。」という機会は、増えるように思います。そうしないと手続きが出来ないケースがあるからです。
「連絡を取っても無視される場合には、黙示の同意として見ていい」などの立法担当者の説明はありますが、明確に反対されるなど、話し合いがまとまらない時に親権調整の手続きを裁判所で行わいないといけない、これが大きな影響だと思います。
これらについては、国会の場で、追加の説明を求めたいところです。
今後の共同親権の推移は十分に見守っていく必要があります。
以 上
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